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チェコのカルト映画、60年代ガーリームービーの決定版「ひなぎく」を解説

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ひなぎく(1966年)

「ひなぎく」(英:Daisies)(チェコ:Sedmikrásky)は、チェコスロバキア社会主義共和国で製作された映画。

先日久しぶりにDVDを見て、センスの良い映像社会へのメッセージ性の良いギャップにあらためて感動したので、当時のチェコの歴史とともに解説していきます。

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ひなぎく(1966年)とは

「ひなぎく」(英:Daisies)(チェコ:Sedmikrásky)は、チェコスロバキア社会主義共和国(現在のチェコ共和国)でヴェラ・ヒティロヴァーという女性監督により製作された映画です。

衣装や小道具などの美術のセンスが抜群で、随所にコラージュ効果、色ズレ、光学処理など実験的な手法が使われています。

ヴェラ・ヒティロヴァー監督は1966年にひなぎくを発表しましたが、共産主義国家から「反国家的」とみなされ映画は発禁処分となり、1969年から7年間の活動停止を余儀なくされたのでした。

残念ながら現在はどこの動画配信サービスにもなく、見るにはDVD・Blu-rayしかないようです。

あらすじ

主人公は自称姉妹の女の子「マリエ」。
2人は働きもせず、学校にもいかず、部屋で紙を燃やしたり牛乳風呂に入ったり、おじさんを騙しては食事を奢らせて、最後は笑いながら捨ててしまったりと自由奔放。
そんなマリエ2人の行く末とは…。

ストーリーは理解不能とも言われていますが、2人の破天荒な行動から社会主義や東西冷戦などで抑圧されたチェコ全体の自由への憧れを感じられます。

当時のチェコスロバキア社会主義共和国の年譜

この映画は当時の社会体制なども踏まえて作品を見る方が楽しいので、当時のチェコを簡単に年譜にしてみました。

1945~1993
  • 1945年
    第二次世界大戦後、独立回復

  • 1948年
    共産主義体制が確立

    共産党がチェコの政治を牛耳るようになり、社会も経済も停滞

  • 1960年
    国名を「チェコスロバキア社会主義共和国」に改称
  • 1966年
    映画「ひなぎく」公開
  • 1968年
    プラハの春(自由化政策しようとしたが失敗)

    改革派のドゥプチェクがチェコ共産党の第一書記に選ばれ、言論の自由や市場経済の導入を打ち出したものの、ソ連により弾圧

  • 1969年
    「ひなぎく」のヴェラ・ヒティロヴァー監督活動停止

    チェコスロヴァキア当局により映画は発禁処分、監督は7年間の活動停止を余儀なくされた

  • 1989年
    ビロード革命(民主革命)

    共産党全体主義体制を倒し、民主化革命が起きた

  • 1993年
    スロバキアと分離・独立

簡単に説明すると、ひなぎくが制作された1966年のチェコは社会主義国家として社会も経済も停滞していたが、改革派のドゥプチェク氏により自由化が少しずつ進んでいた時代。(とはいえまだ検閲もある)
そんな国民全体が抑圧された中でも、少しずつ自由に芸術を表現する「ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)」と呼ばれる若い監督達が出現し始めていた。

当時のチェコ国民の雰囲気は「チェコのテレビ・ドラマから民主主義を考える」という記事でも紹介されていて面白かったです。

好きなシーン

ヴィジュアルが素敵だと思ったシーンを簡単に紹介します。

2人の部屋

https://oddfilmstills.tumblr.com/post/173922218123/daisies-1966


雑誌のコラージュや植物画でびっしりと敷き詰められた壁、カラーコーディネートされた部屋など見た事がないインテリアで素敵。

https://oddfilmstills.tumblr.com/post/173931816056/daisies-1966

蝶の標本

https://oddfilmstills.tumblr.com/post/173959959491/daisies-1966

蝶のコレクションをしている男の部屋にマリエが訪れるシーン。
ピアノの音に合わせた画面の切り替わり方のセンスも良いです。

宴会場を破壊

https://roseydoux.tumblr.com/post/170423556428/daisies-1966

映画のクライマックスでは、パーティー会場で綺麗に盛り付けられた食事をめちゃくちゃに頬張り、ケーキを投げつけ合い、最後にはヒールで踏みつけます。

当時チェコは深刻な経済危機があり、食べ物が踏みつけられるシーンはかなり問題視されました。

「踏みにじられたサラダだけを可哀相と思わない人々に捧げる」の意味

これは誤訳で、直訳は「踏みにじられたサラダだけを可哀相だと思う人に捧げる」だそう。

つまり、マリエたちが踏みつけた料理がもったいないとしか思えない人たちは可哀想という、当時の検閲官や当局への皮肉がこめられたメッセージ。

労働者向けの試写会でこの映画は大人気だったそうなので、当時のチェコの人々にはこの皮肉が伝わっていたという事ですね。

BLACKPINKのMVの元ネタ?

初めてBLACKPINK の 뚜두뚜두 (DDU-DU DDU-DU) のMVを見た時に、「ひなぎく」の宴会場破壊シーンが頭をよぎりました

MVの2:03あたりでRoseがシャンデリアをブランコにして漕いでいるシーンと、
ひなぎくでマリエ達が宴会場のシャンデリアに乗って遊ぶシーンはどこか似ていて、
もしかしたら元ネタなのかも…なんて妄想が広がります。

BLACKPINKの「ガールクラッシュ」とひなぎくの「破壊する女の子像」は、どこか共通する概念があるし、ありえるかもしれません。
(断定はできません、個人の感想です😍笑)

また、ひなぎくはAKB48の「ヘビーローテーション」MVの元ネタにもなっているとも言われています。こちらは同じモチーフが多用されているのでかなり分かりやすかったです。

日本のガーリーカルチャーにも大きな影響が

チェコでは長いこと発禁処分となりましたが、日本では1991年に「ガーリームービー」として公開され、いわゆる渋谷系文化の中で「1960年代の女の子映画の決定版」として広く受け入れられました。

あまり社会的なメッセージには焦点が当たらず、映像のかわいさに注目させて売られていたようです。

最後に

映画「ひなぎく」はシュールでガーリーな映像でラッピングされていますが、実は社会主義への批判や皮肉がたっぷりと詰め込まれている作品です。

かわいいだけのものには惹かれない、鑑賞した後に色々と深掘りしたくなるような作品が好きな方にはとてもおすすめです🤍🏹

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